運動器疼痛
●運動器疼痛について
運動器とは、身体運動に関わる骨、筋肉、関節、神経などの総称です。運動器はそれぞれが連携して働いており、どのひとつが悪くても身体はうまく動きません。
超高齢社会を迎えて、平均寿命と健康寿命(病気や痴呆、衰弱などで要介護状態となった期間を平均寿命から差し引いた寿命)には差が生まれ、運動器機能が長寿に追いつけない時代となってきました。その原因のひとつに慢性的な疼痛があります。特に高齢の方には運動器の疼痛が最も多いという報告がされています。
運動器の慢性的な疼痛への治療法としては,保存的治療(薬物療法,理学療法)や手術療法が従来から行われています。薬物療法には,消炎鎮痛剤や神経障害を改善する薬など症状改善のための薬剤が用いられています。理学療法は全身の主に筋肉の緊張や姿勢などにアプローチすることで疼痛症状を改善させることを目的として広く行われています。ただし,これらの一般的な保存的治療では「満足に改善しなかった」と答える人が非常に多いことも明らかになっています。また、薬物療法などの保存的治療に抵抗性を示す場合には、疼痛の原因となっている組織にメスを入れて取り除く外科的手術が施行されています。しかし、高齢の方にとって外科的手術は侵襲度が高く施行できないケースも少なくありません。
Interventional Radiology (IVR)は、様々な分野でどんな方にも施行可能な低侵襲治療として期待されています。そのIVRの技術を活用して、カテーテルという細い管を使って疼痛部分にできてしまっている異常な血管に塞栓物質を流し塞ぐことにより、除痛を得る治療法が、慢性疼痛に対する新たな治療法として最近行われるようになり、国内外で普及してきています。奈良医大放射線・核医学科では様々なIVRを日本でいち早く導入して積極的に行っており、様々な疾患に対して世界でもトップクラスの良好な成績をあげています。
また、この慢性疼痛に対するIVRは運動器に関する疼痛すべてが対象であり、高齢の方に限らず、テニス肘やゴルフ肘、五十肩など高齢の方以外が患いやすい痛みも治療の対象となります。
●検査
レントゲンやCT、MRIを必要に応じて撮影し病変を確認します。その結果、必要があれば当院の整形外科を受診していただく場合もあります。
●治療方法:経動脈的微細血管塞栓術(Transcatheter arterial micro embolization:TAME)
経動脈的微細血管塞栓術(TAME)は、カテーテルを慢性疼痛部に増殖した血管のすぐ近くまで進め、非常に小さな粒子の抗生物質であるイミペネム・シラスタチンを用いて異常な血管を塞ぎ、除痛を得る新しい低侵襲な治療法です。副作用が少なく高い効果が得られる治療と考えられていますが、細かな血管までカテーテルを挿入するには高度なIVRの技術が必要です。
経動脈的微細血管塞栓術(TAME)症例
左の五十肩による慢性的な疼痛:男性
約半年前から左肩の痛みが出現し、夜も痛みで起きてしまい熟睡できないような状態でした。湿布や塗薬、関節への注射をしたが効果がなく、当院の整形外科の先生の紹介で運動器疼痛に対するIVRを知り受診されました。
黒く蛇行した線が血管です。カテーテルと「造影剤」という薬剤を用いることで、血管だけを観察することができます
図1治療前 〇で示した淡く染まっている箇所が、疼痛部分に増殖した血管です。
図2治療後 淡く染まった箇所が消失しているのがわかります。
治療当日の夜には痛みで目が覚めることがなくなりました。