大血管・末梢血管IVR

大血管・末梢血管IVR

「はじめに」

高齢化社会の到来に伴い、血管病罹患者は爆発的に増加しています。奈良医大放射線・核医学科Vascular intervention teamは血管内治療の黎明期から積極的に閉塞性動脈硬化症 (peripheral arterial disease: PAD) へ血管内治療 (endovascular treatment: EVT) や大動脈ステントグラフト治療 (endovascular aneurysm repair: EVAR) を積極的に取り入れてきました。近年では低侵襲の血管内治療は外科手術と比較して遜色のない治療成績が報告されています。当科は数多くのステントやバルーンの国際共同治験にも携わり、20年以上にわたってこの分野を牽引し続けています。また近年ではvascular intervention groupでの研修を希望する他大学出身の医師も増加しており、学閥の垣根を取り払い、日々の臨床、研究、教育に励んでいます。

「臨床」

臨床では大学病院のみでなく、関連病院でも数多くの末梢動脈、大動脈インターベンションを実施しており、短期間で濃密な経験が得られます。ですので、当科で2−3年の研修を集中的に受ければ、独立したインターベンション医になることが可能です。

下肢閉塞性動脈硬化症 (PAD) に対するインターベンション: EVT

奈良医大では本邦で普及する以前より積極的にEVTを導入し、約40年に及ぶ経験を有しています。様々なステントの治験にも参加し、日本に最新の治療法を導入し続けてきました。腸骨動脈のステントに関する長期成績など、数多くの英文誌論文も出版しています。

大動脈瘤に対するインターベンション (EVAR)

EVARは2007年より保険認可された治療法ですが、奈良医大放射線・核医学科が日本で最初のステントグラフトの臨床治験を主導し、日本への導入に成功しました。それ以後、ステントグラフト治療は増加の一途を辿り、腹部大動脈瘤へのEVARは従来の開腹手術に取って代わり第一選択の治療法となっています。腹部、胸部ステントグラフトの指導医が在籍し、基礎から応用に渡り指導を受けることができます。臨床研究において多くの研究成果をあげています。

「教育」

日常臨床では実際のIVR症例を通じて、基礎から応用まで個人のレベルに応じた指導を受けることができます。腹部、胸部ステントグラフトの指導医が在籍し、まずは実施医資格を1−2年で取ることを目指します。PADに対するEVTも数多く実施していますので、大血管、末梢動脈ともにバランスよくIVR手技を経験できます。毎週血管外科との合同カンファレンスがあり、IVR手技に偏らないニュートラルな視点を身につけることが可能です。また抄読会も行っており、臨床テーマによる論文作成の指導も行っています。研究面では、細胞をベースにしたステント (バイオステント) の開発にも取り組んでいます。

「学術」

血管閉塞に対する治療として、低侵襲である血管内治療がバイパス治療に置き換わっています。ステント留置により、血管内治療後の血管の開存率が向上していますが、晩期での内膜過形成によるステント内再狭窄 (instent restenosis: ISR)が問題となっています。薬剤溶出型ステントの登場により、平滑筋細胞増殖が抑制され、ISR発生が軽減されましたが、ステント薬剤により正常内皮の再生が阻害され、ステント血栓症のリスクがあります。奈良医大では内皮細胞層によりステント内腔表面が被覆された新規バイオステントを開発しています。内皮細胞は血管内の恒常性の維持、血管拡張、抗血栓性に重要な役割を果たしています。ステントという異物に対する体内の反応を緩和し、ISRや血栓症の発生を抑制する期待が持たれています。バイオステントの作成は以下の通り実施しています。ヒト臍静脈内皮細胞 (HUVECs)の分離、培養を行い、ステント周囲にフィブリンゲルを注入、その内腔側表面にHUVECsを生着させます。これまでバイオステント表面の血小板付着軽減を明らかにしました。動物実験も実施しており、バイオステントの開存率や血栓閉塞率の評価を行なっています。

代表的な研究業績(原著)

1.Ichihashi S, Wolf F, Schmitz-Rode T, Kichikawa K, Jockenhoevel S, Mela P. In Vitro Quantification of Luminal Denudation After Crimping and Balloon Dilatation of Endothelialized Covered Stents. Cardiovasc Intervent Radiol. 2017 Aug;40(8):1229-1236.
2.Ichihashi S, Sato T, Iwakoshi S, Itoh H, Kichikawa K. Technique of percutaneous direct needle puncture of calcified plaque in the superficial femoral artery or tibial artery to facilitate balloon catheter passage and balloon dilation of calcified lesions. J Vasc Interv Radiol. 2014 May;25(5):784-8.
3.Ichihashi S, Higashiura W, Itoh H, Sakaguchi S, Nishimine K, Kichikawa K. Long-term outcomes for systematic primary stent placement in complex iliac artery occlusive disease classified according to Trans-Atlantic Inter-Society Consensus (TASC)-II. J Vasc Surg. 2011 Apr;53(4):992-9.
4.Iwakoshi S, Ichihashi S, Itoh H, Tabayashi N, Sakaguchi S, Yoshida T, Nakao Y, Kichikawa K. Clinical outcomes of thoracic endovascular aneurysm repair using commercially available fenestrated stent graft (Najuta endograft). J Vasc Surg. 2015 Dec;62(6):1473-8.
5.Iwakoshi S, Ichihashi S, Higashiura W, Itoh H, Sakaguchi S, Tabayashi N, Uchida H, Kichikawa K. A decade of outcomes and predictors of sac enlargement after endovascular abdominal aortic aneurysm repair using zenith endografts in a Japanese population. J Vasc Interv Radiol. 2014 May;25(5):694-701.
6.Ichihashi S, Marugami N, Tanaka T, Iwakoshi S, Kurumatani N, Kitano S, Nogi A, Kichikawa K. Preliminary experience with superparamagnetic iron oxide-enhanced dynamic magnetic resonance imaging and comparison with contrast-enhanced computed tomography in endoleak detection after endovascular aneurysm repair. J Vasc Surg. 2013 Jul;58(1):66-72.