大腸がん肝転移
大腸癌肝転移の治療について (転移性肝腫瘍を含めて)
外科による切除ができない、あるいは他の臓器へ転移している大腸癌の標準的治療は、全身の化学療法(抗がん剤治療)です。化学療法は近年急激に進歩し多様化していますが、残念ながらいまだにその効果は十分とは言えず、また副作用も決して軽くはありません。大腸癌では肝臓への転移が最も深刻な問題の一つであり、その治療は非常に重要です。奈良医大放射線・核医学科では積極的に大腸がん肝転移に対してInterventional Radiology (IVR;画像下治療)による治療を実施しています。
検査
外来で血液検査、画像検査(造影CTあるいはMRI)を施行して、受診時の臓器機能や病変の正確な広がりを把握し、どの治療法が最適かを判断します。
一般的な治療方法
外科による切除術が可能な場合は切除術が選択されますが、そうでない場合は、化学療法が施行されます。化学療法の場合は、少なくとも2〜4種類の抗がん剤を組み合わせて投与し、毎週あるいは2週間に一度の通院が必要となります。内服薬を組み合わせる場合は、毎日内服する必要が生じます。
一方、IVRは、腫瘍にのみ選択的に治療が可能であるため、抗がん剤を使用しない場合や使用したとしても1〜2種類であるため、副作用は軽度です。我々が施行するIVRは、抗がん剤が副作用で継続できない方、効果が乏しかった方、投与していないが怖くて迷っておられる方、年齢を理由に治療をあきらめようと悩んでおられる方など様々な方を対象としています。
IVRによる治療
1)細い針を腫瘍に穿刺して熱を加える焼灼療法、2)カテーテルを留置して直接肝臓に抗がん剤を注入する肝動注リザーバー療法、3)カテーテルを腫瘍局所まで誘導して抗がん剤と塞栓剤を注入する肝動脈化学塞栓療法があります。
ここで、他の臓器に転移した病態で、肝転移巣のみに治療を施行する意味があるのかということが疑問に感じる方がいらっしゃるかと思われますが、我々はこれまでに、すでに化学療法(点滴や内服の抗がん剤治療)を受けられ、その効果に限界があると判断された患者さんを対象に5-FUという抗がん剤の動注療法を肝転移巣のみに行い、肝転移に効果がでた場合において生命予後が延長することを証明しました(この結果は2010年の米国の医学雑誌「Clinical colorectal cancer」に掲載されました (図1)。現在は5-FUの動注療法以外にも、他の抗がん剤の動注療法、あるいは微少デンプン球やビーズを用いた動脈塞栓術も行っていますし、細い針を用いた焼灼療法も積極的に実施しています。
図1. 肝の制御が生存期間と強く相関する (Nishiofuku H, et al. Clinical colorectal cancer. 2010)
1)ラジオ波焼灼療法(RFA)/マイクロ波焼灼療法(MWA)
焼灼療法は、画像(超音波やCT)ガイド下に細い針を腫瘍まで進めて、腫瘍を直接熱で焼灼する治療です。開腹手術で腫瘍を摘出するのと同等の効果があるとすでに世界中で報告されております。当科においても積極的に根治を目指した治療を取り入れております。手術時間は1時間程度です。
(図2;超音波では同定できないような小さな転移結節であっても血管造影下CTを用いることで病変を正確に同定し、安全に高い精度で治療を完遂した症例で
図2. CTガイド下RFAの症例
2)肝動注リザーバー療法
当科では肝臓へ転移した大腸癌に対する動注療法を以下の様な患者さんに行っています。
- (1)肝機能に影響がでるほど高度に進行した症例
- (2)縮小させ外科的切除に移行したい症例
- (3)高齢などの理由で通常の全身化学療法に耐えられない症例
- (4)副作用が強いため全身化学療法が継続できない症例
- (5)すでに全身化学療法を受けられ(現在受けておられ)、十分な効果が得られていない症例
肝動注リザーバー療法は、肝臓へ直接抗がん剤を注入することで良好な腫瘍の縮小効果が得られます。全身化学療法は副作用が強く日常生活に影響を生じることもしばしばですが、肝動注リザーバー療法は副作用が軽度であるため、全身化学療法の副作用がつらい患者さんや高齢のため全身化学療法に耐えられないのではと治療をあきらめかけている患者さんにもほとんど副作用なく受けて頂けます。治療は原則として外来通院で行いますが、動注リザーバー留置のため数日の入院が必要です。動注リザーバー留置術は局所麻酔で行い、手術時間は1-2時間程度です。
(図3:肝内に多発する転移病変に対して動注療法を継続し、腫瘍の著明な縮小が得られた症例です。)
図3. 肝動注療法の症例
3)肝動脈化学塞栓療法
近年、奈良医大放射線・核医学科では微小デンプン球と抗がん剤を混和した新たな動注療法を開発し、優れた治療効果が得られることを臨床試験で確認しました。微小デンプン球とは、約40μmの大きさの粒子でできた塞栓物質で、体内のアミラーゼ(ヒトが持っている酵素:じゃがいもを消化する酵素)によって約30分で溶解されます。高濃度に濃縮した抗がん剤を微小デンプン球と混和し肝臓に直接注入することで、腫瘍(しゅよう)内の抗がん剤濃度を高め、抗がん剤の作用を効率的に働かせることが可能になります。我々の臨床データでは、全身化学療法で抗がん剤が効かなくなった方を対象として61%の患者さんで腫瘍の著明な縮小を得ることができました。この結果は、2013年の米国の医学雑誌「Journal of Vascular and Interventional Radiology」に掲載されました。
また、欧米で開発された球状塞栓物質(ビーズ)を用いた動脈塞栓療法を転移性肝腫瘍の症例に行っています。ビーズは100〜300μmのものを用いますが、腫瘍の状態によってビーズのサイズの使い分けをしています。IVRのカテーテル技術を用いて腫瘍にだけビーズを注入することで副作用を抑えることが可能です。抗がん剤の副作用がつらい患者さんや抗がん剤では効果が乏しい転移性肝腫瘍の症例に対して施行しております。