がん症状緩和のIVR

がん症状緩和のIVR

●はじめに

本法においてがんに罹患する頻度は増加傾向にあります。がん治療として、手術療法をはじめ多くの治療法が開発され予後の延長が得られている一方で、がんが原因となる様々な症状に対する緩和医療については、医療麻薬を主体とした薬物療法や放射線治療といった従来からほとんど変化していません。
しかしながら近年進歩が著しいIVRが、がんに対する症状緩和に有効であるというエビデンスが本邦から数多く発信されています。 当科では、日々の臨床において症状緩和の必要な患者さんに対して緩和ケア科やそれに関連する診療科と共に、医師だけでなく様々な職種のスタッフと連携をし、IVRを提供しています。

●緩和IVRの種類

どのような症状に対してIVRがお役に立てるのかを下記の表に簡単に示しています。

症状・疾患 治療法
骨転移による疼痛 セメント注入術
動脈塞栓術
ラジオ波焼灼術
難治性腹水 腹腔静脈シャント留置術
難治性イレウス 経皮的食道瘻造設術
上大・下大静脈症候群 静脈ステント留置術
がん性疼痛 腹腔神経叢ブロック

がんにおける症状緩和に対するIVRの特徴として、
①体への侵襲が少ないこと(局所麻酔で可能)、
②効果発現が早いこと、
③画像ガイドで精密・正確な処置ができること、が挙げられます。

1)骨転移による疼痛

骨転移に対するIVRにはいくつかあります。溶骨性変化や骨折を伴っている場合は経皮的なセメント注入術(図1)が有効です。
腫瘍が、他の臓器や神経を圧迫することで症状を誘発している場合は、動脈塞栓術(図2)やラジオ波焼灼術(図3)が有効です。
上記を組み合わせることも症状に応じて可能です。いずれの治療も数日程度の入院で治療が可能です。

2)難治性腹水

腹水に対する治療として、薬物療法や腹水を抜く処置がありますが、いずれも効果が得られない場合を難治性と呼びます。このような状態の腹水については、腹水を静脈内に戻す方法があります。
具体的には、腹腔内から皮下を通して静脈までチューブを留置し体内に埋め込んでしまう腹腔・静脈シャント留置術(図4)という治療法です。
一旦チューブを埋め込んでおくと通常の日常生活は可能な状況になります。

3)難治性イレウス

イレウスと呼ばれる、いわゆる腸閉塞の状態になった場合、鼻から腸管までチューブを留置して減圧する必要がありますが、チューブが鼻から出ていることによるストレスと日常生活への制限が出てきてしまいます。
IVRではそのような留置期間が長くなるチューブなどの留置する部位を食道に作成することが可能です。

4)上大・下大静脈症候群

上大静脈や下大静脈といった中心静脈の通過障害は様々な症状(循環障害がきっかけとなり、全身浮腫、呼吸苦、体液貯留など)を発症します。場合によっては緊急対応が必要な場合がありますので、迅速に対応することが要求されます。
具体的には、静脈造影をすることで原因となっている部位の診断を行い、次にステントと呼ばれる血管内に留置可能な金属の筒を留置することで、正常の循環動態を取り戻す治療です。

5)がん性疼痛

腹腔神経叢、内臓神経ブロックを画像ガイドで実施することで体の深部の神経ブロックが安全に施行可能です。
採血をするよりも細い針を用いて深部の神経叢に薬液を注入して神経ブロックを行うことで痛みの伝達を抑える治療です。ペインクリニック科とも連携しながら治療を行なっていきます。